ミルラ(没薬、マー)にまつわるギリシャ神話

ミルラ=ミュラのギリシャ神話~父への禁断の恋の果て、美少年アドニスの誕生~

キリストの誕生の際に東方の三博士から、高価なものとして黄金、乳香(フランキンセンス)とともに送られたことで有名な樹脂、ミルラ(没薬、マー)の名は、ギリシャ神話に登場するある女性の神話が元なのです。今回はそのことを紹介したいと思います。

フェニキア(現在のレバノン付近)の王女、ミュラは大変美しい女性でした。しかし、彼女が愛の神アフロディテを祀るのを怠ったため(もしくは女神をも上回るほど美しかったためという説もあり)、アフロディテは息子であるエロスに命じて、ミュラに父であるキニュラース王に恋するよう矢を放たせます。
矢のせいで、父に恋い焦がれてしまうキュラは深く悩みますが、それを見かねた乳母が手引をして父王の寝所に、誰であるかを明かさずに連れていき、暗闇の中でミュラは想いを遂げます。キニュラース王は娘と気づかず、謎の女性と何度も会います。そうするうちにミュラは子どもを身ごもりました。ある時、キニュラース王は自分があっている女性がどんな女性か見たくなり、明かりをつけてしまいます。自分が会っていた女性が娘だったと知ったキニュラース王は、驚きと怒りと恥と、様々な感情のまま、剣を抜きます。ミュラは寝所から逃げ出し、放浪の末、アラビアの南までたどりついます。どこにもいけないミュラは神に助けを求め、神は彼女を没薬(ミルラ)の木にしたと言います。
ミルラが木になっても、お腹の中に宿った命は成長し続け、やがて木を割って大変美しい男の子-アドニスが誕生します。
アフロディテの呪いから始まったミュラの物語ですが、その血をを受け継いだアドニスがこのあと再びアフロディテと運命の線が交わります。
その物語は、また別に記事に詳しく書かせていただきます。

ミルラ(没薬、マー)について~薬、防腐剤として使用された木~

悲恋の果てに、姿を変えたミュラの木-ミルラとはどのような木だったのでしょう。
ミルラについては次のとおりです。

  • カンラン科の、トゲのある低木で、肥沃で乾燥した土壌に育つ。
  • 樹皮に切れ込みを入れると出てくる樹液が乾くと赤褐色の樹脂となる。
  • 匂い:甘くスモーキー。オリエンタルな香り。教会など儀式でも使われる神秘的な香り。
  • 効果:殺菌、防腐、乾燥
  • 鎮静剤、鎮痛剤として使われてきた。
  • 古代エジプトでは、遺体保存のためにミルラを使ってミイラを作った(「ミルラ」は「ミイラ」の語源)

ミルラは、殺菌鎮静の作用の他に、こころに働く作用として、落ち込んでいる時、不安が高い時などに緊張を解しこころを穏やかにする作用もあります。

ミルラはミュラの涙とも言われているそうです。恋い焦がれる気持ちと罪の意識の間で苦しみ、たくさんの涙を流したであろうミュラ。逆にその苦しみの涙が、今も多くの人びとを癒やしてくれているのです。

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