ギリシャ神話のアトラスとは?
ギリシャ神話のアトラスとは、次のとおりです。
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ティタノマキアの勝利後、ゼウスはクロノス側であったティアンたちの多くを奈落タルタロスに幽閉しました。しかし、ティタノマキアでゼウスを非常に手こずらせたアトラスにだけは、違った罰を与えました。
それが西の果ての地で永遠に天空を支え続けるという罰だったのです。
ギリシャ神話における西の果てとは、現在のジブラルタル海峡のあたり。アトラスが天空を支えていたあたりよりも先に広がる大西洋は、「アトラスの海(アトランティック・オーシャン)」と名付けられました。
また、地図帳のことを「アトラス」と言いますが、この語源もギリシャ神話のアトラスから来ています。メルカトル図法を発明したオランダ人ゲルハルト=クレメール(ゲルハルドウス=メルカトル)が地図帳をまとめた時に、その表紙には天空を支えるアトラスが描かれていました。また、この地図帳の名は、メルカトルの遺志で「アトラス」と名付けられ、以後、地図帳のことを「アトラス」と言うようになったと言われています。
アトラスと英雄ヘラクレス~アトラスの失敗~
アトラスは永遠に天空を支え続けるという罪を受け続けていましたが、ある時、一瞬だけその業から逃れる瞬間がありました。
それは、英雄ヘラクレスが「12の功業」のひとつである、「黄金のリンゴ」をとりに西の果てにいたアトラスを訪れたときでした。
黄金のリンゴは、アトラスのいる場所の向かいにある楽園で黄昏の妖精ヘスペリデスたちが守っていました。ヘスペリデスはアトラスの娘たちです。ヘラクレスは、ヘスペリデスの父親であるアトラスならば、黄金のリンゴを取ってこれるだろうと思い、アトラスに、りんごを取ってきてほしいと依頼します。アトラスは取りに行っている間、天空を担いでくれるなら引き受けようとヘラクレスに条件を出し、ヘラクレスはそれを受け入れます。永遠に担ぎ続けなければいけないと思っていた天空を一旦下ろせたことで、アトラスはもとに戻ることが惜しくなります。そこで、ヘラクレスに、黄金のリンゴをエウリュステウス王に届けるところまで自分がしてやろうと言います。そしてそのまま逃げ出そうとしたのですが、ヘラクレスはそれを見抜き、「しばらく担いでいるなら、体勢を整えたい。その間天空をちょっと担いでてくれないか」と頼みます。そこで、アトラスがもう一度天空を担いだ瞬間にヘラクレスは逃げ去り、再びアトラスは元の立場に戻ることになってしまいました。
アトラスと英雄ペルセウス~永遠の業から解放された時~
永遠に続くと思っていた天空を担ぐ罰ですが、ある英雄の登場で終わりを迎えます。
その英雄とは、ペルセウスです。
英雄ペルセウスといえば、見るものすべてを石に変えてしまう怪物メデューサ退治で有名です。彼は、メデューサを退治して首を持ち帰り、石化の力を利用してアンドロメダを救出するなど活躍していました。
ペルセウスがその首をアトラスに見せたことで、アトラスは石化してアトラス山脈となり、長く苦しい罰から解放されました。
ペルセウスがメデューサの首を持ってきた経緯については諸説あります。
ひとつは、アトラスの娘たちであるヘスペリデスが、父を苦しみから解放してあげようとペルセウスにお願いしたという説。
もうひとつは、メデューサ退治を終えた旅の途中、ペルセウスが一夜の宿を頼もうとアトラスの元を訪れましたが、アトラスがそれを受け入れなかったために、断られたペルセウスが怒り、アトラスにメデューサの首を見せて石に変えてしまったという説があります。
しかし、アトラスの石化の話は、時系列にやや矛盾があります。系譜で見るとヘラクレスはペルセウスのひ孫なのです。ヘラクレスの黄金のリンゴの件のあと、ペルセウスがメデューサ退治にいく、というのは時代が前後してしまいます。
ヘラクレスは黄金のリンゴを自分で取りに行ったという神話がありますので、そちらをとれば矛盾はなくなりますが、ヘラクレスとアトラスのエピソードがなくなるのもなんとなく寂しいですね。
ギリシャ神話は口承文学なのでいろいろな語り手で話が異なっていったことや、国土が広がるとともにその土地々々の神話も融合して変化していったことが、これらの矛盾の原因だと考えられます。