ギリシャ神話のエロース=恋のキューピッド?
ギリシャ神話のエロースとは大きく2つの描かれ方をしています。
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一般的にはギリシャ神話の中でエロースは、アフロディテの子どもとして彼女に伴って描かれたり、神話の中では彼女の指示でひとに恋心を抱かせる黄金の矢や、逆に憎しみを植えつける鉛の矢を放ちます。ローマ神話の愛の神、クピド(英語読み:キューピッド)と同一視されています。
黄金の矢で射たれたひとを恋に陥らせるイメージが強く、恋の成就に貢献したひとのことを「恋のキューピッド」ということがありますが、これはエロースのことなのです。
しかしこのエロースという神は時代によって大きく描かれ方が変化します。
今回はエロースの描かれ方の変化について紹介したいと思います。
ギリシャ神話のエロースはどんどん若返っていった?
*ヘシオドス期(紀元前8世紀頃)
もともと口承文学(ひとからひとへ口伝えで伝わった文学)だったギリシャ神話の原型をつくった詩人の1人、ヘシオドスによって伝えられるエロースは、創世神話(世界の始まりの神話)に登場します。
カオス(混沌)から、ガイア(大地)、タルタロス(冥界)とともにエロース(愛)が誕生します。エロースは原初神として、物と物、ひととひとを結びつける神とされていました。
このときエロースには特定の容姿などはなかったようです。
*古典期
この頃からアフロディテの従者としてエロースがともに描かれるようになります。このときのエロースの容姿は、有翼で端正な容姿を持つ青年や少年が多くなります。さらにエロースが軍神アレスとアフロディテとの間の子供とされるようになると、その姿は幼く描かれるようになります。
*アレクサンドリア期(紀元前4世紀~1世紀ごろ)
マケドニア王アレキサンドロスの東方遠征でギリシャ文化は広く世界に伝えられます。
そして、紀元前146年にギリシャがローマ帝国の属州となると、ギリシャ神話とローマ神話が結びつき、エロースがローマ神話の愛の神クピドと同一視されるようになります。
このころのエロースはアフロディテの子どもとしてのイメージが強まり、さらに性格的に天真爛漫でいたずら好きといった麺を付与されて、見た目もそれに合わせて幼児化していきます。アフロディテ=母、エロース=子という構図でアフロディテの母性や愛を表現するために、子であるエロースは丸みをおびたからだに可愛らしい仕草で描かれることが多くなります。
背中に翼、手には弓矢がオーソドックスなエロースの姿になります。
ルネサンス期(14-16世紀)
ルネサンスとは、イタリアで始まった文芸復興運動です。この中で古代ギリシャ・ローマ文化が注目され、神話を題材にした芸術作品も多く作られました。
この中で、エロースのかわいい幼児の姿を原型に、神の使いの「天使」が描かれます。
エロースなのか、天使なのかは弓矢を持っているか、持っていないかの違いしかないほど、両者は似ています。
次第に、天使が「クピド(キューピッド)」と言い表されるようになり、エロースと天使が混同されていきます。
このようにエロースは、長い年月をかけて、世界の始まりから存在する神から、可愛らしい子どもの姿をした神に姿を変え、さらには宗教も超えた存在になっていったのです。